最も大きな効果は慢性的な人手不足をやわらげ現場の負担を軽くすること
厨房やホールを長年切り盛りしてきた店主にとって、募集をかけても応募がなかなか集まらず、限られた人数のまま長い営業時間を朝から晩まで回し続けなければならないという苦しさは、いまや多くの飲食店に共通してのしかかる、いちばん根深い悩みになっているのではないでしょうか。
そうした慢性的な人手不足を数ある効果のなかで最も大きくやわらげてくれるという意味で、注文の受け付けや会計や配膳の一部を機械の助けへ委ねていくデジタル化は、真っ先に挙げるべき最上位の恵みだと、はっきり申し上げてよいものだと考えています。
たとえば来店した客が自分の手元の画面から食べたい料理を選んで注文をそのまま送れる仕組みを整えておくと、これまで注文を聞き取るためにテーブルとテーブルの間を幾度も往復していた店員の慌ただしい動きが、目に見えて減っていくことになります。
受け取った注文がそのまま厨房の画面へと流れて調理の指示に変わっていくため、伝票へ書き写したり口頭で読み上げて伝えたりする手間そのものがまるごと省かれ、少ない人数のままでも注文の流れがよどみなく先へ進んでいくようになるのです。
会計の場面においても、客が自分の席の画面から支払いまで済ませられる仕組みをあらかじめ備えておけば、混み合う時間帯にレジの前へ長い列ができてしまうという見慣れた光景が薄れていき、締めの作業へわざわざ人手を割かずに済むようになっていきます。
ひとりの店員が肩に背負っていた仕事の総量が確実に軽くなることで、いまと同じ人数のまま席数を思い切って増やしたり営業の時間を延ばしたりといった、これまで人手の壁にはばまれてあきらめざるを得なかった挑戦にも、ようやく手が届くようになっていきます。
飲食店にとって人件費は食材の原価と並んで経営を大きく左右する太い柱であり、限られた人手を店内のどこへどう振り向けるかという日々の判断が、そのまま月々の利益の厚みを決めてしまうといっても、決して言い過ぎにはなりません。
単純な聞き取りや会計といった作業を機械の側へ譲り渡し、そうして空いた人手を料理の仕上げや客への細やかな気配りといった、人にしかできない仕事のほうへ集中させられることは、店全体の底力を静かに、しかし確実に押し上げてくれるものです。
採用や教育にかかっていた時間や費用も、機械の助けで一人ひとりの日々の負担がやわらいでいけば少しずつ軽くなっていき、新しく入ってきた人が早く一人前の戦力になれる土台づくりのほうへも、余った力を回せるようになっていきます。
もちろん機械をただ入れさえすればすべてが片づくというわけではなく、店の広さや客層や料理の性質に合わせて仕組みを丁寧に選び取り、時間をかけて現場になじませていく地道な工夫があってこそ、省力化という最大の効果は本当の意味で実を結んでいくものです。
だからこそ、数ある効果のどれから手をつけるべきか迷ったなら、まずは店のなかで人手の負担をいちばん重く感じている工程を落ち着いて見きわめ、そこへデジタル化の力を集中して注ぎ込むところから始めるのが、遠回りに見えて実は最も確かな一歩になってくれます。
そうして人手の負担がやわらいでいけば、店主自身もまた終日厨房に張りつめて疲弊するばかりの日々から少しずつ解き放たれ、店の先々をじっくり考えたり新しい献立を練ったりといった、経営者にしか担えない大切な仕事へ落ち着いて向き合えるようになっていきます。
二番目に大きいのは逃していた売上の機会をつかみ席の回転を高めること
人手の負担がやわらいだそのすぐ先で、次に大きな手ごたえとして立ち現れてくるのが、これまで気づかぬうちに取りこぼし続けていた売上の機会を、ひとつずつ着実に拾い上げられるようになるという、経営に直結する前向きな変化にほかなりません。
満席で入れなかった客をただ申し訳なさそうに帰してしまっていた店が、待ち時間を画面で分かりやすく知らせて順番を管理する仕組みを整えておくと、あと少し待てば入れると分かった客が店の前に踏みとどまってくれ、空いた席へよどみなく案内されていくようになります。
注文から料理の提供までの一連の流れが速まっていけば、一組あたりの滞在の時間がほどよく引き締まって短くなり、同じ席が一日のうちに迎え入れられる客の数がおのずと増えていくため、席数そのものを変えないまま売上を伸ばしていくことができるようになります。
客が自分の手元の画面でゆっくりと落ち着いて品書きを眺められるようになると、忙しそうな店員をわざわざ呼び止める気おくれから注文をためらっていたもう一品が気軽に加わり、一組あたりの支払いが少しずつ着実に積み上がっていくという効果も、決して見のがせません。
その日のおすすめの一皿や季節を映した特別な食事を、画面のいちばん目立つ場所へさりげなく差し出しておけば、はじめは頼むつもりのなかった品にふと心を動かされる客が増えていき、店側が本当に売りたい品を自然な形ですすめる後押しにもなっていきます。
電話がふさがっていて予約を受けられなかった時間帯であっても、画面から昼夜を問わず二十四時間いつでも席の予約を受け付けられるようにしておけば、これまで取りこぼしてきた来店の芽を、誰の手もわずらわせずに静かに拾い続けることができるようになります。
注文の締めや会計にかかっていた時間が目に見えて短くなることで、次に待っている客をいたずらに待たせずに席へ通せるようになり、混み合う時間帯の一分一秒が、そっくりそのまま店の売上へと結びついていくさまを、日々の営業のなかで実感できるはずです。
売上の機会をつかむこの効果が人手の緩和に次いで二番目に大きいと申し上げるのは、負担がただ軽くなるだけでは店はどうしても守りに入るにとどまってしまい、攻めの一手がそこへ加わってこそ、経営に前向きで力強い勢いが生まれてくるからにほかなりません。
一組ごとのわずかな取りこぼしは、その日一日だけを切り取って見ればごくささやかな額に映るかもしれませんが、月をまたぎ年を幾度も重ねて静かに積み上がっていったときには、店の存続そのものを左右してしまうほどの、大きな差へとふくらんでいくものです。
逃していた機会を確かな数字として目に見える形にできる点も見のがせず、どの時間帯にどれだけの客を惜しくも帰してしまっていたのかがはっきりと分かれば、人の配置や仕込みの量をあらためて練り直すための、確かで動かしがたい手がかりにもなっていきます。
売上を伸ばすというと、とかく新しい客を外から呼び込む派手な策にばかり目が向きがちですが、いままさに目の前まで足を運んでくれている客を取りこぼさずに迎え切ることこそ、大きな費用をかけずに堅実な成果を得られる、いちばんの近道だと申し上げておきます。
こうして目の前の来店を丁寧に迎え切る力が備わってくると、店は無理に安売りへ走らずとも売上をしっかり保てるようになり、価格ではなく料理や居心地そのもので選ばれる店へと、静かに足場を固めていけるようになるのです。
三番目の恵みは注文の取り違えを減らし料理提供の正確さを底上げすること
売上の取りこぼしを防げるようになった店が、それに続いて手にしていく三番目の恵みとして挙げておきたいのが、注文の取り違えや伝え漏れといった現場の綻びが目に見えて減っていき、料理を客のもとへ正しく届けられる確かさそのものが底上げされることです。
口頭で受け取った注文をいったん紙へ書きつけて厨房まで運んでいくやり方には、聞き間違いや書き漏らしや伝票の取り違えといった綻びがどうしてもつきものであり、慌ただしい時間帯になればなるほど、そうした小さな誤りが人知れず積み重なりやすいものでした。
客が自分の手元の画面から選んだ内容が、途中で誰かの手を経ることなくそのまま厨房への指示へと変わっていく仕組みであれば、人の耳や手を幾度も介していた過程が減るぶんだけ、注文の中身が伝わる途中でねじれてしまう余地そのものが、確実に小さくなっていきます。
食物のアレルギーの有無や、食材の量のこまやかな加減といった細かな要望についても、あらかじめ画面の上で正確に選んで漏れなく伝えられるようにしておけば、思い込みによる行き違いが減り、客の身体にかかわる大切な情報を取りこぼさずに済むようになっていきます。
提供の正確さが増していくということは、注文と違う料理を出してしまって作り直すために食材を無駄にする場面が減っていくということでもあり、原価の面から静かに眺めても、確かな節約となって店の利益を下のほうから支えてくれることになります。
注文の取り違えは、その一皿がまるごと無駄になってしまうだけにとどまらず、長く待たされたあげく違う料理を出された客の落胆や店への深い不信を招き、二度と足を運んでもらえなくなるという、数字の表には決して表れにくい重い代償を伴うものでした。
頼んだとおりの正しい料理が正しい席へよどみなく届けられていくという地道な積み重ねが、客の胸のうちに静かな信頼をゆっくりと育てあげ、また近いうちにこの店へ来たいという気持ちを、目には見えない形でそっと後押ししていくことになります。
この確かさの底上げをあえて三番目に置いたのは、注文の綻びが減ることで現場全体の混乱がやわらぎ、店員が余計なやり取りや後始末に追われずに落ち着いて動けるようになるという、二次的で波及的な広がりまでもがそこから生まれてくるからにほかなりません。
提供にまつわる記録が数として一つひとつ残っていくため、どの品でどんな行き違いが起きやすいのかを後から静かに振り返って確かめられるようになり、品書きの並べ方や料理の説明の仕方をあらためて練り直していくための、貴重な手がかりにもなっていきます。
飲食店にとって、客が頼んだ料理が思ったとおりの姿でちゃんと出てくるというごく当たり前のことを、崩さずに毎日守り続けていくのは、派手さこそまるでないものの、店という商いの土台を足元から静かに固めていく、何よりの基本だと申し上げてよいでしょう。
華やかで分かりやすい効果の陰にどうしても隠れがちなこの正確さの底上げは、日々の地道な営業を目立たぬところで支え続ける縁の下の力そのものであり、長く商いを続けていくうえで決して欠かすことのできない、実に確かな恵みなのだと言い添えておきます。
正確さがあたりまえのものとして現場へ根づいた店は、客からの思わぬ苦情に追われて疲弊する時間そのものが減っていき、その空いた心の余白を、より心地よいもてなしを工夫していくための前向きな力へと、静かに振り向けられるようになっていきます。
四番目に効いてくるのは売れ行きの記録を読み解き仕入れの無駄をそぐこと
料理提供の正確さという土台がしっかりと固まってくると、日々の営業のなかで自然にたまっていく売れ行きの記録が、やがて次の一手を導き出してくれる貴重な手がかりへと姿を変えていき、四番目の効果として、目立たないながらも静かに効いてくるようになります。
いつ、どの料理が、どれだけの数だけ注文されたのかという記録が日ごとに細かく残っていけば、これまで店主の勘や記憶だけに頼りきっていた仕入れの判断を、確かな数字の裏づけをもとにして冷静に組み立て直していけるようになっていきます。
曜日や天候の移り変わり、あるいは季節のめぐりによって売れ筋の料理がどのように動いていくのかが数字を通じて見えてくれば、仕込みの量を過不足なくちょうどよく調えられるようになり、作りすぎて泣く泣く捨てるはめになる食材の無駄を、大きくそぎ落とせるのです。
それとは逆に、人気の品をうっかり切らしてしまって客を落胆させてしまうという事態のほうも同時に減らせるため、機会の取りこぼしを防ぐという二番目の効果ともしっかり手を取り合いながら、店の利益を両側からはさむようにして支えてくれることになります。
食材の廃棄が減っていくということは、店の原価をじかに軽くしてくれるだけにとどまらず、限りある食べ物をいたずらに無駄にしないという店の姿勢そのものが、訪れる客や地域の人々の目に映り、店の評判を静かに高めてくれるという副えの恵みまでもたらします。
売れ行きの読みが精密さを増していけば、翌週や翌月にどれだけの客の来店を見込めそうかという見通しも格段に立てやすくなっていき、人の配置や食材の発注をあらかじめ余裕をもって滑らかに調えておけるようになり、現場の慌ただしさもやわらいでいきます。
飲食店のdxを腰を据えて語るうえで、こうした売れ行きのデータの活用は、現場の作業をただ軽くしていく段階の、さらにもう一歩先にある取り組みであり、店の頭脳を鍛えあげて経営の判断そのものを賢く磨いていく営みなのだと、はっきり位置づけられます。
この効果をあえて四番目に据えたのは、成果が目に見える形で実を結ぶまでにある程度の記録の蓄積と、それを読み解いていく地道な手間をどうしても要し、日々の負担軽減や売上増ほどには早く手ごたえが現れにくいという、時間にまつわる事情があるからにほかなりません。
それでも、いちど数字を落ち着いて読み解く習慣が現場のなかへしっかりと根づいてしまえば、仕入れの精度は営業の日々を重ねれば重ねるほどにじわじわと磨かれていき、時間をむしろ味方につけながら、その効き目を静かにふくらませていく息の長い恵みへと育っていきます。
これまでどんぶり勘定のまま感覚だけで回してきた店ほど、記録に基づいて仕入れをいちど根本から見直したときの改善の幅は驚くほど大きく、これまで自分でも気づかぬうちに垂れ流し続けてきた無駄のあまりの多さに、あらためて愕然とさせられることも少なくありません。
売上を積極的に伸ばしていく攻めの策と、食材の無駄を地道にそぎ落としていく守りの策の、その両方に同時に効いてくるという意味において、売れ行きの記録を読み解く力は、店の経営を丸ごと一段引き上げていくための、実に確かな足がかりになってくれるものなのです。
こうして数字を手がかりに仕入れを整えていく習慣が根づいた店は、目先の勘に振り回されることが減っていき、季節の移ろいや客の好みの変化にもあらかじめ備えながら、腰を据えて先々の商いを描いていけるようになっていくものです。
五番目の効き目は一度きりの客を常連へと変え幾度もの再来店を呼び込むこと
目の前の一組を取りこぼさずに迎え切る力がひととおり備わってきたなら、次に見すえたくなるのは、せっかく足を運んでくれた客と店との間に結ばれた細い縁を、これからどう太く育てていくのかという課題であり、そこにこそ五番目の効き目が静かに立ち現れてきます。
会員として登録してもらった客の来店の履歴や注文の記録を、手元の仕組みのなかへこつこつと積み重ねていけば、その人ならではの好みや店へ通う頻度に応じた声かけや特典を、大勢へ一律にではなくひとりずつに丁寧に合わせて差し出せるようになっていきます。
誕生月に贈るささやかな一品や、店へ通えば通うほど少しずつ増えていく小さな特典をあらかじめ用意しておけば、また近いうちにあの店へ足を運びたいという客の気持ちがそっと後押しされ、一度きりで途切れていたはずの縁が、幾度も先へと続いていくようになるのです。
手元の画面を通じて季節ごとの新しい献立や店の催しの知らせをこまめに届けられるようにしておけば、いつのまにか足が遠のいてしまっていた客の記憶をやわらかく呼び覚まし、もう一度この店へという来店へと、無理のない自然な形でそっと誘い出すことができます。
ひとたび常連となってくれた客は、繰り返し訪れて店に安定した売上を運んでくれるだけにとどまらず、心のこもった評判を自分の周りの人々へと静かに広め、まだ見ぬ新しい客を店へ呼び込んでくれる頼もしい担い手にもなってくれる、まさにかけがえのない存在です。
まだ店を知らない新しい客をひとり外から呼び込むには、すでに店を知って好いてくれている客にもう一度足を運んでもらうよりも、はるかに多くの手間と費用がかかるとされており、再来店を丁寧に促していく取り組みは、費用の面から眺めても実に理にかなっています。
この効果をあえて五番目に据えたのは、客との関係というものを腰を据えて育てていくには、どうしても時間の積み重ねが欠かせず、仕組みをただ整えたその日からすぐに目に見える成果が跳ね返ってくるという、そういう即効の性質のものではないという理由によります。
それでもなお、店へ通うたびに自分のことをちゃんと覚えていてもらえるというあの心地よさは、目先の値引きの多い少ないをはるかに越えて客の心の奥へ深く残っていき、店と客との間にそう簡単には揺るがない結びつきを、時間をかけて築きあげていく力を秘めています。
手元の仕組みのなかに一日また一日と積もっていく一人ひとりの記録は、単なる無味乾燥な数字の羅列などではけっしてなく、その人がいったい何を好み、どんなひとときを店へ求めて訪れているのかを映し出す、思いやりを届けるための実に大切な手がかりなのです。
飲食店がこの先も長く商いを続けていくうえでは、遠くにいる見知らぬ大勢の人々よりも、すぐ近くで店を支え続けてくれる顔なじみの常連客を、いったいどれだけ増やしていけるのかということが、店という土台の厚みそのものを、静かに、しかし確実に決めていきます。
一度きりのはかない出会いを、幾度も先へと続いていく確かな縁へと丁寧に変えていくこの五番目の効き目は、目立つ派手さこそ控えめであるものの、店のこれからの未来を目立たぬところで静かに支え続けてくれる、実に頼もしい恵みだと申し上げてよいでしょう。
こうして幾度も通ってくれる常連に支えられるようになった店は、天候や季節に左右されがちな来店の波に揺さぶられにくくなり、腰の据わった安定した経営の土台の上で、次の新しい挑戦へと安心して踏み出していけるようになっていきます。
六番目に見えてくるのは働く人の負担がやわらぎ接客の質までも高まること
ここまで順に挙げてきた五つの効果が現場のなかへしっかりと根を張っていくと、その地道な積み重ねの果てに、店で日々働く人たちの負担そのものがやわらいでいき、ひいては客へ差し出す接客の質までもが静かに底上げされていくという、六番目の変化が見えてきます。
注文の受け付けや会計や仕込みにまつわる細々とした作業が機械の助けを借りて軽くなっていけば、店員が慌ただしさにひたすら追われて心の余裕を失ってしまう場面が目に見えて減っていき、落ち着いた気持ちのまま一日の長い営業に向き合えるようになっていきます。
心にゆとりが生まれた店員は、客のわずかな表情の変化や口にはしない小さな求めにまで細やかに気を配れるようになっていき、機械には決して代わることのできない、人ならではのあたたかで柔らかな気配りを、惜しみなく客へと注げるようになっていくものです。
単純な繰り返しの作業からいくらか解き放たれることによって、料理の盛りつけをこれまでよりも丁寧に仕上げたり、客との何気ない会話そのものを心から楽しんだりといった、働く手ごたえややりがいを確かに感じられる仕事のほうへ、気持ちを向けられるようにもなっていきます。
働く人が度を越えた負担にすり減らされずに済むようになっていけば、疲れ果てた末に黙って店を去っていく人が減っていき、この店で長く働き続けてくれる人がじっくりと育っていくという、店という商いの土台の深いところにかかわる、大きな恵みへとつながっていきます。
経験を十分に積んだ店員が辞めずに現場へ残り続けてくれるということは、接客の質を安定した高さで保っていくうえで欠かせないだけでなく、新しい人を採ってまた一から根気強く育て直す手間や費用をおのずと抑えられるという、経営の実利の面でも大きな意味を持ちます。
この効果をあえて最後の六番目に置いたのは、働きやすさや接客の質といった成果が、そもそも明快な数字としては測りにくい性質のものであり、他の五つの効果が十分に積み重なった、さらにその先にゆっくりと現れてくる、いわば総仕上げのような立ち位置にあるからです。
それでも、この段階にまでたどり着いた店は、機械の力を借りて人をただ減らすのではなく、機械の力を借りることでむしろ人を存分に活かすという新しい境地に立っており、デジタル化がもたらす一連の恵みを、最も豊かで実りある形で受け取っているといえるでしょう。
働く人がふと浮かべる笑顔と、それを受け取る客の満足とは、たがいに静かに支え合いながら店全体の空気を明るく整えていくものであり、その心地よい循環がひとたび回りはじめた店は、価格や立地の良し悪しだけでは到底説明のつかない、独特の魅力をまとうようになります。
飲食店のデジタル化というものは、突きつめて考えていけば、人を冷たく機械へ置き換えていく営みなどではけっしてなく、そこで働く人がその人らしい持ち味や力を存分に発揮できる舞台のほうを、丁寧に整えていくための手立てなのだと、この段階に至ってようやく深く腑に落ちてきます。
人手の負担の軽減という一点から静かに始まった一連の効果が、めぐりめぐった果てに、人ならではのぬくもりを客のもとへと確かに届ける力へと結実していくそのさまは、影響の大きい順にたどってきた序列の締めくくりにふさわしい、静かで奥行きのある恵みだと申し上げておきましょう。
こうして人と機械がそれぞれの持ち味を存分に生かし合う関係が現場へ根づいた店は、働く人にとっても訪れる客にとっても心地よい居場所となり、その評判が静かに広がっていくことで、さらに人も客も集まってくるという好循環を描いていけるようになります。
まとめ
手作業に頼りきってきた店がデジタル化から受け取っていく恵みを、影響の大きい順に一つひとつたどってみると、それぞれの効果が互いに孤立したまま働くのではなく、上位の成果が下位の成果を次々と呼び込みながら、まるで鎖のように連なっていく姿が浮かび上がってきます。
最も大きな効果である人手不足の緩和がまず現場に確かな余力を生み出し、その生まれた余力が売上の取りこぼしを防ぎ、注文の正確さを底上げし、売れ行きの記録を読み解く土台を整え、客との細い縁を太く育て、やがて働く人の笑顔と接客の質までを高めていくという、一続きの流れがそこには確かに息づいています。
大切なのは、数ある効果のうちどれを最初に狙っていくのかを、他店の評判ではなく自分の店のいまの実情に照らして冷静に見きわめることであり、いま現場が最も痛みを感じている工程はいったいどこなのかを正直に見つめ直すところから、確かな一歩は静かに踏み出されていきます。
何もかもを一度にまとめて整えようと肩に力を入れて気負う必要はまったくなく、影響の大きい上位の効果から順に手をつけていき、小さな成功の手ごたえを一つずつ確かめながら次の段階へと進んでいくやり方こそが、無理なく着実に成果を積み上げていくための、堅実で息の長い道筋となってくれます。
デジタル化は決して人のぬくもりを奪い去っていく冷たい仕組みなどではなく、むしろ人が人にしかできない仕事のほうへ心をたっぷりと注げるようにするための、頼りがいのある心強い支えなのだという視点だけは、どの段階に進んでいっても忘れずに大切に抱えていたいものです。
日々の食事を客の目の前へ真心こめて差し出すという飲食店の営みは、どれほど機械の力を上手に借りたとしても、その根のところに脈々と流れる人の思いやりがあってこそはじめて輝くものであり、デジタル化はその輝きをいっそう引き立てるための、舞台裏のさりげない工夫にほかなりません。
影響の大きい順に並べたこの六つの段階を確かな道しるべとしながら、自分の店にとっていったい何がいちばん効いてくるのかを腰を据えて冷静に見定めていけば、限られた時間と費用のなかにあっても、迷わず一歩ずつ前へと進んでいけるはずだと考えています。
これまで手作業の重みに長く縛られてきた店ほど、勇気を出して最初の一歩を踏み出したときに訪れる変化はいっそう鮮やかであり、そのときに得た確かな手ごたえが、次の新しい挑戦へと向かうための静かな勇気を、店の内側でじっくりと育てあげてくれることでしょう。
効果の序列を正しく理解したうえで手をつける順番さえ誤らなければ、デジタル化はきっと、店で汗を流して働く人と、暖簾をくぐって訪れる客との双方に、確かで長続きする幸せを運んできてくれる、力強く頼もしい味方になってくれるはずだと、心から信じています。
とりわけ心に留めておきたいのは、これら六つの効果がいずれも、機械そのものが単独で成し遂げてくれるものではなく、あくまで人がその力を上手に使いこなし、現場の実情へ丁寧に合わせていってこそ、はじめて本当の実りへと結びついていくのだという一点にほかなりません。
導入を焦って形だけ機械を並べても、現場がその仕組みになじめないままでは、かえって混乱を招いて足を引っ張りかねず、だからこそ働く人の声に耳を傾けながら、一歩ずつ着実に定着させていく地道な歩みが、遠回りに見えて最も確かな成果への近道になっていきます。
デジタル化を店の未来をひらく頼れる味方として迎え入れ、影響の大きい効果から順に落ち着いて手をつけていけば、飲食店はきっと、人手の壁に阻まれてきたこれまでの苦労を越えて、働く人も訪れる客もともに笑顔になれる、あたたかく力強い明日へと歩みを進めていけるはずです。